何でこうも簡単に引っ掛かるかな、まもりは。

あたしがいる時点でセナ君が主務とマネージャーの仕事両方やってないってわかるでしょ。

セナ君のことになるときっと頭の回転悪くなるのね。



7th down 甘くて苦い



さて。



「ヒル魔。いい加減脱いで制服に着替えたいんだけど」



あれこれやってて忘れてたけど、あたしはまだチア衣装のままでいた。



「っつか、早く着替えろ。帰んぞ」



…っつか、って……何。
前に言葉がないとその接続詞は使えないと思うんだけど。

ま、いっか。



「おいてかないでね」

「テメェの着替えが早けりゃな」

「サイテー」



本当においてったらあとで呪い殺してやる。





…結局、おいてかれることはなかったけど。
栗田が"王城ホワイトナイツ"ってしつこいほど呟いてるのをどうにかしてほしい。



「おうじょう…ホワイトナイツ〜〜〜…」

「そ、そんなに強いんですか?」



栗田の呟きに影響されてセナ君までビビリ始めてるし。
気持ちで負けてちゃなにもできないってば。



「去年の99−0のリベンジするぞ。今年はアイシールド21がいるからな!」

「そうだ!あのアイシールド誰だよ!」

「陸上部にも紹介してくれ」



"アイシールド21"っていう言葉を聞いた途端、他の運動部員がヒル魔にかかってきた。

けど。



「さあ〜〜〜〜?」



たった一言だけで返した。
こっからはあたしの出番。



「ロシアの名門レツカフ体育学院で基礎訓練の後、ノートルダム大にアメフト飛び級留学。毎試合100点取った男…とだけ言っておくわね」



パタンと手帳を閉じてヒル魔を見る。
ヒル魔の口角が上がった。



「99点取られようが100点取りゃ勝つんだよ。アメフトで大切なのは攻撃(オフェンス)だ!」

「ヒル魔やあなたたちで走行ルートを確保。そうすれば、あとはアイシールド21…彼が必ず…」

「「その手で100点掴み取る!」」



うわ…。リハなしにここまで合うとは。
何なんでしょう。

やだなぁ、もう。



「そういえばちゃん。顔色悪いけど、大丈夫なの?病み上がりでヒル魔君があんな格好させるから!!」

「ぇ。嘘」



全然普通なんだけど。
んー…微熱かな、多分。


「とりあえずなんともないし、大丈夫なんでない?」

「そう?ならいいんだけど。無理はしないでね?」

「ハーイ」



まもりはどれだけの人に過保護なんだろう?
ひまなときにでも調べてみようっと。



ーーーー泥門前駅、泥門前駅



ぁ、降りなきゃ。荷物…。



「糞マネ」


「・・・あたし?」



まもりもマネージャーになったからわかりづらくなったなぁ…。
普通に呼んではくれないのか。



「テメーは運転手に話しつけてこい。しばらく停車しとけってな。手帳、持ってきてあんだろ」

「ぁ…うん」



とっくに話つけてあるのかと思ったけど、まだだったんだ。


…もちろんのこと、運転手は快く停車してくれていた。



「糞デブ、その荷物片付けておけ。私物は各自で持ち帰れよ」

「はい、んじゃ解散ね。お疲れ様」



みんながかったるそうに帰っていくのを見送った。
やっぱり、助っ人は助っ人のままか。
部員になりたいって人はいないよねぇ…。



「栗田、あたしも手伝うよ」



いくら栗田でもこんな量は大変でしょ。



「糞マネ、テメーは俺と来い。糞過保護マネと糞主務、テメーは糞デブ手伝ってから帰れ。行くぞ」

「ぇ?ぁ、うん。ごめん、まもり。あとよろしく」



今度の王城戦に向けての練習についてかな?
まぁ、強豪だしねぇ。



「どこ行くの?」

「オマエん家」

「ヒル魔疲れてるでしょ?各自の練習法ぐらいあたし1人で考えられるよ?」



…反応無し。
こういうときのはどういう意味だろ?考え中かな?



「…お前、なんか勘違いしてるだろ」

「へ…?」

「誰が作戦会議するって言ったよ?」

「…違うの!?」



ぇ、だって他に何の理由があってあたしだけを呼び出すかな…?

キミドリスポーツに買い出し?
でも十分に補充しておいたからまだまだ平気なはず。



「じゃあ何のため…に……」



あたしがそう言いかけたとき、ヒル魔の顔が至近距離にあった。
コツン、とヒル魔の額があたしの額にあたる。



「なっ…」

「チッ、知恵熱かと思ったがやっぱり普通に熱あんじゃねぇか。昨日より高ぇし、いつ倒れてもおかしくねぇぞ」



え?いや、さっきまではホント微熱かと思ってたけど、今ので少し上がった気がする…。
それに何か頭重いし。

ぁー、風邪ってぶり返すと厄介なのに。困ったなぁ。

って、



「うおあぁっ!!?」



体が急に浮いたかと思ったらヒル魔にお姫様抱っこされてました。
何でこうも行動が早いんですか、ヒル魔クン。



「バカみてぇな声出してんじゃねぇ。落とすぞ」

「…ごめんなさい」



降ろしてくれるんならいいんだけど、ヒル魔の場合本当に落としかねないからな…。



『ぼふっ』



「うぁ」




ベッドの上に落とされた。
恥ずかしいことこの上なかったし…。

でも、お礼ぐらいは言っておくか。
重かっただろうし。

そう思って口を開いた瞬間。



「聞きたいことがある」



ヒル魔がそう言った。

聞きたいこと?



「…何?」



あたしは布団をかぶりながら聞き返した。



「何で嬉そうじゃなかった」

「…ぇ?何が?」

「試合終了後、てめぇの顔だけ笑ってなかった。体調不良の所為じゃねぇだろ」



……。

今、あたしはどんな顔をしてるんだろう。

確かにあのとき、自分でも疑問に思った。
けど、すぐに理由はわかった。


見られてたんだ、ヒル魔に。

あのときの、あたしを。









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